東京高等裁判所 昭和50年(行コ)62号 判決 1978年10月31日
控訴人 宮重忠市
被控訴人 神奈川税務署長
代理人 真鍋薫 川口秀憲 ほか二名
主文
本件控訴を棄却する。
附帯控訴に基づき、原判決中、被控訴人敗訴の部分を取消す。
右の部分に関する控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は、第一・二審とも、控訴人の負担とする。
事実
<前略>
(控訴人の主張)
一 バー、キヤバレーにおいて飲食した者に対しては飲食料金の一〇パーセントにあたる料理飲食等消費税が賦課されるところ、同税は、経営者が特別徴収義務者としてこれを徴取したうえ県に納入するものであるから、本来預り金の性質を有する。したがつて、所得の計算にあたり、同税額は収入として計上されるべきものではなく、必要経費として計上されるべきであるから、売上高を推計するについては、同税額を除外すべきである。被控訴人主張の推計売上金額は同税額を含めた金額であるから、これを一・一で除した金額を売上金額とすべきである。
二、三 <略>
(被控訴人の主張)
一 <略>
二 料理飲食等消費税について控訴人が主張するような取扱いをするためには、その前提として、客から収受した金員が同税の部分と料金の部分とに分別経理され、納付すべき同税の額が客観的に明確にされており、かつ、同税が現実に納付され、又は納付されることが確実視できる場合でなければならない。ところが、控訴人にあつては、料金と預り金とが会計処理上分別されておらず、客から収受した金員のうち、同税の額がいかほどであるかを確認することができないから、これを納付することが確実視できると解することはできない。したがつて、本件のような場合には、納付された分について考慮すれば足りるところ、控訴人が納付した同税は、昭和四〇年分としての納入申告分及び更正分の合計二、二一二、七七九円のほかには、納入申告がなく、納付の事実もないから、控訴人の実態に即してした被控訴人の処分は適法である。
三、四 <略>
(証拠関係) <略>
理由
一 控訴人主張の請求の原因一ないし三の事実はいずれも当事者間に争いがないところ(但し、昭和三九年分の裁決後の納税額の点を除く。)、控訴人は、昭和三八年分の事業所得は皆無であり、三九年分及び四〇年分の控訴人の事業所得金額は請求の原因一の確定申告のとおりであり、したがつて、右各年分の事業所得金額について右申告額以外に、又はこれを超えてした被控訴人の所得税決定又は所得税更正決定及び加算税賦課決定(但し、東京国税局長の昭和四三年八月二日付裁決により減額された後のもの)の各処分は違法である、と主張する。
二 まず、被控訴人は、控訴人の前記各年分の事業所得は、控訴人が経営するキヤバレー「ミカド」、バー「白百合」、「白鳥」、「ゴルフ」の収益によるものであると主張するところ、控訴人は、バー「ゴルフ」は山下兵意の経営にかかるものであつて控訴人が経営していたものではなく、かつ、昭和三九年以降は営業していない、また、バー「白百合」、「白鳥」、の昭和三八年の経営者は吉原康子(旧姓後藤)であつて控訴人ではないとして、いずれもその所得の帰属を争う旨主張するので(控訴人がキヤバレー「ミカド」、バー「白百合」、「白鳥」を昭和三九年、四〇年に経営し、その所得が控訴人に帰属したことは、当事者間に争いがない。)、以下検討する。
(一) <証拠略>によれば、「ゴルフ」は、昭和三八年一月二八日山下兵意名義で神奈川県保健所から食品衛生法に基づく営業許可を受け、同三九年二月一〇日同人名義で同保健所に廃業届が提出されており、昭和三七年一二月から昭和三八年三月までの間の同店の料理飲食等消費税(以下「料飲税」という。)は後藤康子及び山下兵意の名義で納入されているが、同年四月から昭和三九年二月までの間の同料飲税は控訴人又は後藤康子名義で納入されていること、当時後藤康子は控訴人と事実上の夫婦であつたこと、同店は酒類を中島屋酒店から仕入れており、その仕入金額は昭和三八年分二三五万八八四五円、同三九年分三五万二四〇四円、同四〇年分四二万六六二八円に及ぶところ、昭和三八年六月から同三九年一月までの間における同酒店に対する支払いは、すべて東京相互銀行横浜駅前支店の控訴人名義の当座預金口座から控訴人が振出した小切手によつてされていること、控訴人の本件審査請求に関与した税理士斎藤武雄は控訴人の依頼によつて同店の所得計算をしたものであること、以上の事実が認められる。
右認定の事実によれば、「ゴルフ」は、昭和三八年、三九年、四〇年のいずれの年も営業しており、その経営者は山下兵意ではなく控訴人であつて、したがつて、その所得は控訴人に帰属していたものと推認するのが相当である。
(二) <証拠略>によれば、「白百合」は昭和三四年一二月ころ、「白鳥」は昭和三六年五月ころそれぞれ開業され、いずれも開業以来昭和三九年三月ころまで吉原康子(旧姓後藤)が各店舗の営業責任者となつていたのであるが、同女は、右各店舗の経営者ではなく、「白百合」の開業ごろから控訴人と同居し、同人と事実上の夫婦であつたこと、昭和三八年の「白百合」、「白鳥」の料飲税は、同年四月分を除き、いずれも控訴人又は控訴人の旧姓である高橋忠市名義で納入されていること、昭和三八年における「白百合」、「白鳥」の前記中島屋酒店からの酒類仕入代金、及び「白百合」の木下商店からの酒類仕入代金は、「ゴルフ」の場合と同様に、控訴人振出の小切手によつて支払われていること、昭和三八年六月及び同年一〇月に「白百合」の電話料金が控訴人振出の小切手によつて支払われていること、清水建設株式会社が「白百合」に支払つた昭和三八年七月ないし九月の飲食代金は前記東京相互銀行の控訴人名義の当座預金口座に入金されていること、以上の事実が認められる。
右認定の事実によれば、昭和三八年における「白百合」、「白鳥」の経営者は、吉原康子(旧姓後藤)ではなく、控訴人であり、その所得は控訴人に帰属していたものと推認するのが相当である。
(三) 原審及び当審における控訴人本人の供述のうち右(一)及び(二)の認定に反する部分は、前掲証拠関係に照らして、到底信用しがたい。
三 <略>
四 そこで、キヤバレー「ミカド」についてその事業所得の推計方法が合理的であるかどうかを検討する。
(一) 昭和四〇年分
1 売上金額
原判決五八枚目裏一一行目から五九枚目裏九行目までを引用する(但し、五八枚目裏一二行目「一、二回)」の次に「及び弁論の全趣旨」を加え、同一三行、一四行目の「昭和四〇年の各月の売上を把握し」を削除し、五九枚目表四行目の「期間」を「各月」と改め、同五行目の「前記鈴木証言によつて」から一〇行目の「控除したもの」までを「同各月のビール仕入本数数からビールびんの破損により消費されなかつたビールの本数及び前売券(一月、二月の前売券売上枚数は不明であるので、同各月の前売券売上を前売券一枚あたりの売上金額で除して、同各月の前売券の枚数を算出)により消費されたビール本数を控除したもの」と改め、同一二行目の「中島」を「中島屋」と、同一三行目「破損分の〇・二パーセント」とあるのを「ビールびんの破損分及び前売券分」とそれぞれ改め、五九枚目裏一行目から二行目にかけて「(その計算式は被告主張一の一覧表1のとおりである。)」とあるのを削除する(編注・訂正後の引用部分「<証拠略>によれば、被告は、原告提出にかかる現金出納ノート、伝票、来客集計表により、現金売上、掛売上、前売券売上、接待売上を通じて比較的よく記帳されている一、二月、九ないし一二月の総売上金額を算出し(但し一月の掛売上は欠帳があるので、一日当りの平均掛売上金額に営業日数二九日を乗じて算出)、これより前売券売上を除いた売上を右各月のビール消費本数(但し、「同各月のビール仕入本数数からビールびんの破損により消費されなかつたビールの本数及び前売券(一月、二月の前売券売上枚数は不明であるので、同各月の前売券売上を前売券一枚あたりの売売金額で除して、同各月の前売券の枚数を算出)により消費されたビール本数を控除したもの」)で除して、ビール一本当りの売上金額を算出し、これにビール仕入先である前記中島屋酒店に対する反面調査によつて把握した年間ビール仕入本数(但し、ビールびんの破損分及び前売券分を控除したもの)を乗じたうえ、年間の前売券売上金額を加算して年間総売上金額を算出したことが認められる。
以上のように被告は反面調査によつて完全に把握されたビール仕入本数に着目し、売上金額がほぼ完全に把握できる月のビール一本当りの売上金額を算出し、これによつて年間売上金額を推計したのであるが、キヤバレーのようにビールの売上を主体とする飲食業においては、その仕入と売上は相関関係にあることを考えれば、右推計方法は合理的であるということができる。」)。
ところで、ミカドの昭和四〇年中のビールの仕入本数が大びん九、七一九本、スタイニー二四本であること及び同年一月、二月、九月ないし一二月のビール仕入本数が四七、五六八本であることは当事者間に争いがなく、<証拠略>によれば、スタイニー二四本を仕入れた同年四月当時における大びんの仕入価格は一本一一五円であり、スタイニーのそれは一本六五円であることが認められる。
また、<証拠略>を総合すれば、昭和四〇年一月の掛売上額を除いた同年一月、二月、九月ないし一二月の総売上金額の合計は四三五九三〇一〇円であること、同年一月分の掛売上のうち記帳されているのは同月三日ないし七日及び二七日ないし三一日の合計一〇日分だけであり、その金額は合計二五三六九〇円であることが認められる。そして、前記認定の推計方法により同年一月の掛売上の金額を計算すれば、同年一月の掛売上金額は七三五、七〇一円となるから、同年一月、二月、九月ないし一二月の総売上金額が四四三二八七一一円となることは、計算上、明らかである。
次に、<証拠略>及び弁論の全趣旨を総合すれば、昭和四〇年の前売券売上が一月一八万一五〇〇円、二月五万四五〇〇円、一〇月一四万二八〇〇円(五四枚)、一一月四九万六三〇〇円(二四二枚)、一二月六六万三一〇〇円(三五三枚)であること、前売券一枚についてビール一本がつくこと、前売券売上枚数の二〇パーセントに当る者は通常来店しないことが認められ、<証拠略>によれば、仕入後消費される前にビールびんが破損する割合は仕入本数の〇・二パーセントであることが認められる。
控訴人は、前記ビールの仕入本数のうち五七〇本は、二四本入りのケース以外の方法によつて仕入られ、営業用としてではなく交際用にあてられたものであると主張するが、当審における控訴人本人の供述中右主張に副う部分はたやすく信用しがたく、他にその主張事実を認めるに足りる証拠はない。そこで、前記認定の各数値に基づき、前記認定の被控訴人主張の算出方法によりビール一本当りの売上金額を算出すると、九一三円一五銭となり、「ミカド」の同年間総売上金額は八九五六万五八六〇円となる、(算式は、別紙計算表(1)、(2)、(3)のとおりである。但し、同(2)の二行目の「44,328,716円」を「44,328,711円」と、同行目「42,790,516円」及び同五行目の「/42,790,516円」を「42,790,511円」とそれぞれ訂正する。)。
控訴人は、料飲税の額は収入として売上高に計上されるべきでない、と主張する。ところで、料飲税の額について控訴人主張のような取扱いをするためには、その前提として、客から収受した金員が同税の部分と料金の部分とに分別経理され、納付すべき同税の額が客観的に明確にされており、かつ、それが現実に納付されたか、又は納付されることが確実視される場合でなければならないと解するのが相当である。しかしながら、控訴人の会計処理において、客から収受した金員が料飲税の部分と料金の部分とに分別経理されていたことを認めるに足りる証拠はなく、右収受にかかる金員のうち納付すべき同税の額は客観的に明らかでないから、被控訴人が控訴人の売上高を推計するにあたり、同税の部分を除外しなかつたのは正当というべきであつて、控訴人の主張は採用の限りでない。
2ないし18 <略>
(二) <略>
五ないし六 <略>
七 以上のような次第で、控訴人の本訴請求はすべて理由がないから、原判決中、控訴人の請求を認容した部分は失当であるといわざるをえない。
よつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、附帯控訴に基づき、原判決中、控訴人の請求を認容した部分を取消して、右の部分に関する請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第九六条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 枡田文郎 斎藤次郎 佐藤栄一)
別表(一)、(二) <略>
計算表
(1) 40年の1月及び2月の前売券の枚数
40年10~12月の前売券売上 142,800円+496,300円+663,100円=1,302,200円
同上期間の前売券枚数 54枚+242枚+353枚=649枚
同上期間の前売券1枚当りの売上 1,302,200円÷649枚=2,006円
40年1、2月の前売券売上 181,500円+54,500円=236,000円
同上期間の前売券枚数 236,000円÷2,006円=117枚
(注) 前売券売上及び枚数については、原判決の7丁裏の月別売上表による。次の(2)の売上金額について同じ。
(2) ビール1本当りの売上金額
40年1.29~12月の前売券売上を除く総上金額 44,328,716円-1,538,200円=42,790,516円
同上期間のビールの仕入本数(破損分控除後) 47,568本×99.8%=47,472本
〃 前売券枚数(来店者分のみ) (649枚+117枚)×80%=612枚
〃 前売券分を除くビールの消費本数 47,472本-612本=46,860本
〃 ビール1本当りの売上金額 42,790,516円÷46,860本=913円15銭
(3) 40年のミカドの売上金額
40年の年間仕入本数(破損分控除後) 97,207本×99.8%=97.012本
〃 消費本数(前売券分を除く) 97,012本-612本=96,400本
〃 前売券売上を除く売上金額 @913円15銭×96,400本=88,027,660円
〃 総売上金額(上記金額に40年1,210~12月の前売券売上を加算) 88,027,660円+1,538,200円=89,565,860円
(注) ビールの仕入本数は、スタイニー24本分を大ビンに換算して加えたものである。 97,194本(大ビン仕入本数)+24本×65/115=97,207本
(4) 39年のミカドの売上金額
ビール1本当りの売上金額 913円15銭
39年の年間仕入本数(破損分控除後) 77,160本×99.8%=77,005本
〃 消費本数(開店祝使用分を除く) 77,005本-200本=76,805本
〃 総売上金額 913円15銭×76,805本=70,134,485円
(5) 39年のミカドの売上原価及び一般経費の合計金額
40年のミカドの売上原価及び一般経費の合計 18,209,479円+20,147,947円=38,357,426円
上記合計額の売上に対する割合 38,357,426円÷89,565,860円=42.82%
39年の売上原価及び一般経費の合計金額 70,134,485円×42.82%=30,031,586円
(6) 39年のミカドの雇人費
39年の開店祝ビールを含めたミカドの売上 70,134,485円+(913円15銭×200本)=70,317,115円
40年のミカドの売上に対する雇人費の割合 42,099,880円÷89,565,860円=47.00%
39年の雇人費 70,317,115円×47.00%=33,049,044円